「今」が肝心 〈本番で止まってしまわない為に〉

 

音楽は時間の芸術だと言われますが、

ステージで弾いている時は本当にそう感じます。

先の事は少し考える事はあっても、

弾き終わった過去は絶対に振り返ってはいけない。

本当は先の事も考えない方がいいのです。

「今」が一番大切。

時間がどうこうと考える事すら邪念なんですけどね。

ただただ音楽の流れに身を任せる事、それがすべてです。

 

最近、本で読んだり、テレビで観たりしたものの中に、

「今」に集中する事が大切、という内容が幾つかあって、

偶然なのか、今まで気付かなかっただけなのか、

不思議な気がしています。

 

ダン・カーターというNZのラグビー選手の自伝。

「試合中に、結果を出そう、とか、記録を狙おう、

という考えに囚われていると、目の前のプレーでミスをする。」

 

岩合光昭さんという動物写真家の特集番組。

「こういう場面を撮ってやろうと思って何ヶ月も探し求めたが、

結局撮れずに身体を壊した。でも、目の前でキリンが棘だらけの

木の枝から葉を舌でめくり取って食べている姿を見て、

自分が撮るのはこういう世界なんだ、と悟った。」

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森下典子さんの『日日是好日』というエッセイ。

「茶道の先生は作法の事しか教えてくれない。目の前の動作に

集中しなさい、と。どうして心の部分を教えてくれないのか。

でも、それはある日、自分の五感が気付くものだと知った。」

 

内容は概略ですが、こんな感じです。

 

演奏中に、(特に本番で)

「指が動かなくなるかもしれない」と思うと動かなくなるし、

「音が分からなくなるかもしれない」と不安になると指が止まるし、

「さっきの所は上手くいったな〜」と思った瞬間、次の音を弾き損なう・・・

すべて今と関係ない事を考えてしまうから起こるミスです。

 

私は音大時代まで、本番で止まってしまう、という癖が直らず、

克服するのに苦労しました。

ミスタッチならまだしも、止まってしまうのは最悪。

受験を控え「どうにかしなくては」と本気で考えました。

「あそこの音、何だったっけ?」「止まってしまいそう・・」

などと、次々に押し寄せて来る不安を払拭するには、

音を聴き続ける事、それしかない、と気付いた時がありました。

「ダメだ、間違えそう・・・」と思った時、

「音を聴かなきゃ」と思い直したら、

指が勝手に動いて、その危機を逃れられたのです。

自分を信じて、弾いた音から耳を離さないでいれば、

次の音の所に自然に指が行ってくれる・・・

練習を積んでいれば、これは間違いないはずです。

どうしても不安が先走って間違えてしまう、という方は、

とにかく音を聴き続ける事に全神経を傾けてみて下さい。

そうすれば、音楽が自然に指を進めてくれますよ。

流れに身を任せ、鳴っている音に耳を澄ませていると、

次の音を弾くタイミングが自然に生まれます。

音楽ってそういうものなんだ、と信じられるかどうか・・・

 

演奏には過去も未来も関係ない。

どんなに練習が足りてなくても、

逆に、どんなに練習が足りていても、

本番で弾き始めたら、無心で今、この音楽に身を捧げること

それしか出来る事はありません。